コンペティション概要
この30年間で建築設備のイノベーションは大きく進みました。新しく令和を迎えた今、さらなる建築設備の技術革新が求められています。未来ある若い皆様方が「未来へのイノベーション」を想造してみてください。
このコンペでは縁の下の力持ちであるエンジニアリングの進化を大胆に予測し、30年後の2050年の社会を想像してもらいたい。なお、エンジニアリングは広く捉えていただいて構わない。エネルギーやインターネットなどの進化が社会を変えつつある現在から見て、30年後の諸君が活躍する社会はどんな姿だろうか。
審査員(敬称略)
- 審査委員長
- 奥宮正哉〈名古屋大学 名誉教授〉
- 審査員
- 村上正継〈建築設備技術者協会 中部支部 支部長〉
閑林憲之〈建築設備技術者協会 中部支部 副支部長〉
黒田慎二〈建築設備技術者協会 中部支部 副支部長〉
河村英之〈建築設備技術者協会 中部支部 理事〉
久米 守〈建築設備技術者協会 中部支部 理事〉
伊藤弘正〈建築設備技術者協会 中部支部 理事〉
後援
愛知県、名古屋市
(公社)空気調和・衛生工学会中部支部
(一社)電気設備学会中部支部
(一社)愛知県設備設計監理協会
(一社)岐阜県設備設計事務所協会
(一社)三重県設備設計事務所協会
(一社)静岡県設備設計協会
総評
この度は、一般社団法人建築設備技術者協会中部支部創立30周年記念学生コンペ、「建築設備の未来へのイノベーション~建築設備の技術革新は将来どうなっていくだろう~」に多数応募いただき、心から感謝申し上げます。現在のコロナ禍の状況の中で、このようなコンペ応募作品を仕上げていくことはとても大変であったと推察しますが、それにも関わらず大変レベルの高い作品を応募してくださった学生の皆さんの努力に敬意を表します。また、多くの応募作品が集まるように後押しをしてくださった先生方に感謝を申し上げます。
応募作品の審査は、7名の審査員によって1次と2次の2段階で厳正に行いました。まず1次審査では書類審査を行い、提出された作品を各審査員が個々に審査し採点をしました。そして、その集計結果をもとに2次審査では3密回避を徹底しながら全員が集まり議論を行いました。上述のように各作品のレベルは高く評価は拮抗しており議論は伯仲しましたが、最終的に最優秀賞1点、優秀賞3点、佳作を4点選定するに至りました。
応募作品はエネルギー地産地消、個別分散、エネルギーインフラ、再生可能エネルギーなど脱炭素社会に必須なテーマ、将来にわたって大きな環境問題として取り組んでいかなければならないゴミ、特に海洋ゴミの取り扱い、with、after、nextコロナのニューノーマル時代の生活様式に対応した建築計画・設備計画、そしてAI、IoTの活用などを様々に組み合わせた、まさに「建築設備の未来へのイノベーション」というテーマに果敢に取り組んだものばかりでした。また、作品はそこに込められた思いと併せて読み応えがあり楽しいものであり、仕上がりも素晴らしいものであったと評価されました。
今回のコンペ参加をきっかけに、今後さらに新技術の将来予測、Society5.0の先に対する想像力、またハードとソフトの両面からの計画などを常に意識しながら、低炭素、その先の脱炭素、そしてレジリエントな社会の構築に貢献できる人材として発展されることを祈念して、建築設備技術者協会中部支部創立30周年記念学生コンペの総評の結びとさせていただきます。
2020年11月11日
一般社団法人建築設備技術者協会
中部支部創立30周年記念学生コンペ・審査員一同
審査結果
応募者(敬称略)
氏名 | 所属 | 学部・学科 |
後藤さくら | 名城大学 | 理工学部・建築学科 |
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金子知可 | ||
榊原匡泰 | ||
清水美里 | ||
森島良定 |
作品に込めた思い
世界規模で問題になっている地球温暖化の解決と、安全でより暮らしやすい町づくりを目指し、愛知県南部に位置する田原市をモデル都市としてこのコンペに取り組みました。
私たちは「エネルギー地産地消」こそが問題解決の手がかりになり、一石何鳥にもなり得る案だと考え、これをテーマにAIを導入したバイオマスプラントと地域冷暖房システムを地域ごとに配置することを提案します。
この提案によって、エネルギー源を回収する際の配送や電気供給のロスを省くこと、電力と熱供給のピークを知って効率的なシステム稼働が可能になります。また、プラントを各地域に配置すれば町に暮らす人々の目にとまることが増え、環境問題に対する意識が向上するという期待と願いも込めています。
地域の特色を利用したエネルギー地産地消方法を考え、そのようなシステムが構築された町や都市を増やしていくことが環境問題の解決に繋がると考えます。
作品講評
生ごみ、燃料作物、稲作と家畜からのメタンガスとバイオ資源の回収によるバイオマスプラントと農地の上部に設置する太陽光発電による電気をシェアリングする「エネルギーの地産地消」システムの提案であり、また具体的なモデル都市を設定してその位置づけを定量化した優れた作品である。さらなる新規技術の導入や建築設備的な観点からの提案が期待される。
資源循環型社会形成における
「複合海洋プラント」の計画
応募者(敬称略)
氏名 | 所属 | 学部・学科 |
高椋敦士 | 名古屋大学大学院 | 環境学研究科・都市環境学専攻 |
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竹内宏輔 |
作品に込めた思い
近年、海洋ゴミは”海の景観の悪化”・”生物への悪影響”もあり、環境問題の中でも深刻化している。私たちは、「海の豊かさを守るための建築」を提案する。海洋ゴミという「ゴミの山」を「資源の山」として捉え直し、それを用いてエネルギーとして使ったり、資源として再利用したりする。
選定した荒川というこの土地は、人が集まるポテンシャルが高く、「海の家」のようなコミュニティ・ハブを目指す。また、現在のゴミ処理場やプラントの多くが、社会からNIMBY施設(迷惑施設)と認識され、社会から追いやられ、閉ざされた建築として、裏で社会を支えている現状に対して、本提案では、新しく海・社会に開かれ人(市民・観光客)を集める建築として生まれ変わることで、社会全体で、海を守ることに繋げる。ゴミを資源としてエネルギーを創り出すことだけが目的ではなく、この建築を通して、新しいプラントとなり人々の海への眼差しを修復することも目的である。この建築の使い手は、その都心に居る市民・そして観光客と想定している。
本提案は海洋ゴミの8割ほどが人の生活から川を介して排出されることに着目し、河口で回収することを考えた。これはSDGsの「海の豊かさを守ろう」という目標における、海洋と海洋資源の持続可能な保全を目指している。
また、近年では発電所におけるエネルギー問題も顕著となってきており、2030年の旧式石炭火力発電所の停止やダックカーブ問題といったクリーンなエネルギーの供給における化石燃料依存からの脱却と再生可能エネルギーなどの導入によるトレードオフとも取れる供給量の調整が難しさについての解決の一助となるような提案に入れてみたいと考えた。
作品講評
現在大きな問題となっている海洋ゴミを中心にエネルギー、資源として活用する方法を提案し、そのシステムを検討するとともに、利用施設の計画を建築的な観点、またコロナ禍でのオフィスのあり方と関連付けて提案した優れた作品である。少し総論的な本提案がさらに具体化され、また例えば海洋ゴミを集めるシステムが提案されることが期待される。
通信インフラの高度化におけるAI・IoT技術を
駆使した建築設備による既存建物の発展
応募者(敬称略)
氏名 | 所属 | 学部・学科 |
橘航輝 | 名古屋大学大学院 | 環境学研究科 都市環境学専攻 |
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白井めぐみ | ||
神谷珠文 | ||
熊野拓郎 |
作品に込めた思い
2020年春頃、一部地域では第5世代移動通信(5G)のサービス展開が開始され、2〜3年後には5Gの人口カバー率90%が期待されている。さらには、誰しも想定していなかった新型コロナウイルスによるリモートワークの促進を受けて、通信インフラ増強に拍車がかかっているように感じる。
したがって2050年には、高度な通信インフラが整備されることで、急速な発展を遂げるAI・IoT技術が真価を発揮するプラットフォームが用意されていると思う。ただ、建築物の長寿命化や老朽化対策により2050年に多くの建築物が新しく生まれ変わっているとは考えにくい。
そこで2050年には実装・普及が見込まれるAI・IoT技術を想定し建築設備に駆使することで、既存の建物はどのように発展し人々の快適性を実現させるのか、を本作品のテーマとしている。
作品講評
技術革新が急速に進み通信プラットホームが整備され、一方で建築物の長寿命化や老朽化対策により既存ストックの活用も求められる2050年において、AI、IoT技術を建築設備に駆使することで、既存の建物はどのように発展し人々の快適性を実現させるのかを提案した優れた作品である。既存建物の使われ方の変化に対応した技術の適用のプロセスなどのロードマップがさらに期待される。
〜2050年 水素社会を目指して〜
応募者(敬称略)
氏名 | 所属 | 学部・学科 |
北村拓真 | 愛知工業大学 | 工学研究科 博士前期課程 電気電子工学専攻 |
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磯部由佳 | ||
仲尾聡起 | ||
津坂亮博 | 工学研究科 博士後期課程 電気材料工学専攻 |
作品に込めた思い
社会の発展とともに、人々が生活で消費するエネルギー量は年々増加しており、それに伴い温室効果ガスの排出量も増加している。さらに、我々がエネルギーを得るために消費している化石燃料は有限である。
近年では、クリーンで枯渇することのないエネルギー資源として、再生可能エネルギーが注目されている。その中でも我々は、水から生成可能である水素に注目した。
30年後、日本のみならず世界が地球環境に配慮し、その利用に目を向けることで、これまでの生活水準を下げることなく、かつ温室効果ガスの排出を抑えた生活方式が普及することを願い、今回その一案を提案した。
作品講評
太陽光発電について、雨水・排水からの水素生成と瓦型ソーラーパネルを利用した住宅のシステムの提案を行い、2050年をしっかり見据えた再生可能エネルギー利用の促進・低炭素社会へ向けたイノベーションが感じられる優れた作品である。発電電力の熱変換や逆潮流との組み合わせも含め、他用途の建築を含めた地域システムの提案につながることが期待される。
応募者(敬称略)
氏名 | 所属 | 学部・学科 |
下堂園麻友 | 日本福祉大学 | 経済学部・経済学科 |
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菱川水裕 | 愛知工業大学 | 建築学科・建築学専攻 |
宮下知佳 | 建築学科・住居デザイン専攻 |
作品に込めた思い
令和という新しい時代が始まり、建築設備の技術革新が求められている今、未来へと繋がるような最新型の建築設備を考えました。
現在世界で流行している新型コロナウイルスの影響で、本来では人が集まることが無条件に良いとされていた建築物が、今では人が集まることがリスクとなり、懸念されるようになってしまいました。そのような時代に必要となるであろう、人と人との密を避けることが出来るような、1人用の移動式カプセルを考えました。
今回の提案では病院での待合室での密を避けるような提案をしましたが、サイズや用途を変更することで、商業施設などの混雑を招く建築物でも適用すると考えています。
作品講評
新型コロナウイルスの影響で、建築物にて人が集まり種々の行動を行うことに関するリスクが懸念される中で、人と人との密を避けることが出来る一人用の移動式カプセルの仕組み、そして病院の待合室に適用した場合の運用方法を提案した優れた作品である。他用途への展開、また今後の建物はコミュニケーションの場としての役割が重要となる点に、どのように対応するかの提案も期待される。
応募者(敬称略)
氏名 | 所属 | 学部・学科 |
藤村類 | 名城大学 | 理工学部 建築学科 |
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作品に込めた思い
時代が進むと技術も進歩していき、自宅から出ずに何でもできる生活が来るかもしれない。働き方としてもオフィスが不要となり、自宅で仕事をすることが増えてくる。そんな自宅で過ごすことが増えた30年後、人々が健康であり続けるには、どのような技術革新が必要なのか「オフィスが不要となる時代」を主軸に考えた。
作品講評
コロナ禍の中で進んでいる在宅ワークが働き方の主流になる時代を見据え、人々が健康、快適に過ごし、作業効率を確保するという課題に対しての建築設備の対応を、生活リズムを適切にする照明、壁を介しての換気、人間行動を感知しつつの建築設備の制御を提案した優れた作品である。AI、IoT技術の活用方法、個人住宅以外への展開の可能性などの提案も期待される。
応募者(敬称略)
氏名 | 所属 | 学部・学科 |
鈴木笙悟 | 名古屋市立大学 | 芸術工学部 建築都市デザイン学科 |
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森まり | ||
寺澤梨瑛 | ||
吉岡沙野 | 芸術工学研究科 博士後期課程 | |
Afifa Yuina | 芸術工学研究科 博士前期課程 |
作品に込めた思い
近未来において、エネルギーの脱炭素化技術のイノベーションを期待しつつ、多様な低炭素のエネルギー利用技術を1つひとつ上手に積み上げて活用することが必要だと考えた。また、災害に強いまちづくりとレジリエンスに重点を置いた都市機能やインフラの整備はこれらの技術が根を下ろす土壌としてとても大切であると考えている。
これらを踏まえて、都市インフラの小型分散化と集約は基本的な整備方針として見据えた上で、既存の低炭素要素技術を上手に取り入れることを徹底して行った。まず小型分散化と集約については、「駅そば生活圏」のようなコンパクトなコミュニティに着目し、都市サービスとインフラを分散・集約して公共交通網でそれらをつなぐ構想とした。これは名古屋市が目指しているあるべき姿と脈を一緒にしている。
既存の低炭素技術としては、屋上緑化、日射遮藪、地域冷暖房、河川水や地下鉄排熱利用など未利用エネルギー利用、雨水利用を取り入れた。また、浄水場のプールを太陽光発電パネルで覆い発電効率を向上させる工夫や河川水の熱利用のためのポンプ場は災害時には生活用水として活用する計画も盛り込んだ。これらはチームメンバー1人ひとりが提案したものを反映したもので、冒頭に述べた「低酸素技術を1つひとつ上手に積み上げる」ことを実現した産物である。
さらに、これらすべては、私たちに優しいものでなければならないということは言うまでもなく、IoTやAIといった技術は私たちの日常生活の中により深く浸透し、快適な暮らしを支えると考えた。
最後に、将来の技術革新は明確に語ることは難しいが、一人ひとりができることを見つけて、1つひとつ丁寧に積み上げていくことで明るい未来が待っている確信している。
作品講評
駅そば生活圏を基本として、地域のエネルギー源を有機的に活用しつつ、技術をひとつひとつ着実に積みあげながら、これに加えて創エネルギーの新技術やAIによる人体生理の検知をもとにした空調・照明設備の制御などを組み合わせ、低炭素・レジリエンスな住み続けたい街を提案した優れた作品である。広範なシステムの中での創エネルギーやAI活用の位置づけの明確化が期待される。
〜環境教育E棟〜
応募者(敬称略)
氏名 | 所属 | 学部・学科 |
杉本玲音 | 愛知工業大学 | 建築学科 住居デザイン専攻 |
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作品に込めた思い
大学に新しく「交流のできる場」をつくる。
広大な敷地にそびえ立つE棟は、5つの吹き抜けと、地面から天井に繋がる構造体である壁により開放的な空間がそこにはできる。
ソーラーパネルや壁に液晶パネルを埋め込む最新設備の技術によって、様々な面で大学に活気をもたらし明るい未来へと変える。
作品講評
壁柱がつくる多様な場と外部空間において学際的な思考が展開されることによりイノベーションがおこり、また既存技術との融合も含めて発展し、さらに将来の世界を創る学生さんを育てていくことを支える建築を提案し、そこに太陽光発電や見える化パネルを活用することを示した優れた作品である。さらにAIなどを活用した建築・設備の運用におけるソフト面の提案が期待される。