コンペティション概要

わたしたちの生活に欠かせない快適な環境を作る重要なアイテムである「みず・くうき・でんき」を有効に活用して建築設備の未来を創造しましょう。そして建築設備が地球環境にやさしく、人々に幸せを与える未来のイノベーションを提案してください。

審査員(敬称略)

審査委員長
奥宮正哉〈名古屋大学 名誉教授〉
審査員
黒田慎二〈建築設備技術者協会 中部支部 支部長〉
末松辰朗〈建築設備技術者協会 中部支部 副支部長〉
中島勝美〈建築設備技術者協会 中部支部 理事〉
増田素之〈建築設備技術者協会 中部支部 理事〉
水野孝政〈建築設備技術者協会 中部支部 理事〉
藤原和典〈建築設備士の日記念学生コンペ実行委員〉

後援

(公社)空気調和・衛生工学会中部支部
(一社)電気設備学会中部支部
(一社)愛知県空調衛生工事業協会
(一社)愛知電業協会
(一社)静岡県設備設計協会
(一社)岐阜県設備設計事務所協会
(一社)三重県設備設計事務所協会
(一社)愛知県設備設計監理協会
※順不同

総評

この度は、一般社団法人建築設備技術者協会中部支部2025年建築設備士の日記念学生コンペ・建築設備の未来へのイノベーション~未来の環境を創造する「みず・くうき・でんき」の活用~に多数応募いただき、心から感謝申し上げます。レベルの高い作品を応募してくださった学生の皆さんの努力に敬意を表します。また、多くの応募作品が集まる後押しをしてくださった先生方に感謝を申し上げます。

応募作品については、7名の審査員によって1次審査と2次審査の2段階で厳正に行いました。まず1次審査では書類審査を行い、提出された作品を各審査員が個々に審査し採点をしました。そして、その集計結果をもとに2次審査では全員が集まり議論を行いました。

今回の応募作品を概観しますと、水資源としての利用、冷却水としての利用、発電による活用などの「みず」に関する提案が多くありました。また、アクアポニックス、バイオエネルギー、人工光合成、地下鉄排熱、海上でのエネルギー生成などの提案もありました。対象シーンとしては、地下空間、データセンター、山小屋、伝統産業地域、避難所、都市や街での移動手段など様々に設定されていました。さらに水素、ロボット、AIなど現在急成長している技術の利用に関するものがありました。学生の皆さんが本コンペのテーマを良く理解した上で熱意を持って応募してくださったことが伝わってきて、主催者としてはとてもうれしい気持ちでいっぱいです。

応募作品はどれも力作でしたが、一方で全ての作品においてもう少し独自性・創造性があり、定性的・定量的な検討が加えられていれば、さらにレベルの高い提案になったのではないかという評価がされました。

そして議論した上で、最優秀賞1点、優秀賞2点、佳作5点を選定いたしました。また今回も奨励賞を1点選定いたしました。

皆さんが建築、都市そして設備が地球環境にやさしく、人々に幸せを与える未来をさらに意識していただき、自由な発想を持って豊かな世の中の実現に貢献できる人材として成長されることを祈念しています。

2025年12月3日
一般社団法人建築設備技術者協会 中部支部 
2025年建築設備士の日記念学生コンペ・審査員一同

審査結果

最優秀賞
廻る水、動かす人
−まなび、まもる山小屋−

応募者(敬称略)

氏名 所属 学部・学科
今泉輝洋 名古屋大学 環境学研究科 都市環境学専攻
藤原采音
奥田竜馬
切明裕大

作品に込めた思い

山小屋運営は冬季に登山客が少なく休業を余儀なくされるため収入の安定性に欠け、後継者不足や管理人の高齢化も深刻化している。一方、退職世代の余暇登山や若者の登山ブームにより登山客数は増加傾向にあり、環境への負荷も拡大している。加えて、水源となる沢の枯渇に伴う断水の頻発により登山客にも不便を強いている。

そこで本提案は、登山客の増加を負担ではなくシステム維持の力と捉える。バイオガストイレの導入による水使用量の削減、大規模集水システムによる水源の確保、空調温水のカスケード利用による水の循環を進め、登山客をシステムの一部として組み込むことで山小屋の持続性を高める。加えて参加型計画や大浴場の設置により魅力ある空間を創出し、年間を通じた来訪が期待される。

この山小屋の実現により、登山客だけでなく自然環境にもやさしい施設となり、登山を通して環境への関心と自然体験の楽しさが広がることを願う。

作品講評

登山ブームにより登山客数は増加傾向にあり環境負荷も拡大しているが、本提案は登山客の増加をシステム維持の力と捉えたものである。バイオガストイレによる水使用量の削減、エネルギー生成・利用、堆肥活用、雨水利用などによるシステムが示されている。山小屋に注目という大変面白い視点であり、システムの内容もうまくまとめられている。さらに新しい発想を組み込まれることが期待される。

優秀賞
Regenerative Energy Community
~伝統産業の再興と資源・防災連携が紡ぐ未来~

応募者(敬称略)

氏名 所属 学部・学科
田中希穂 名古屋大学大学院 環境学研究科 都市環境学専攻
竹内沙梨衣
川地健 名古屋大学 工学部 環境土木・建築学科

作品に込めた思い

近年、地球温暖化の進行に伴い平均気温が上昇し異常気象が頻発するとともに、日本の伝統産業の衰退が顕在化している。味噌作りもその一例である。

私たちは味噌作りが盛んな長野県諏訪市を対象に、味噌文化の再興と住民交流の活性化を目指すコミュニティの在り方を考えた。地域に存在する未利用エネルギーや再生可能エネルギーを活用し、エネルギーを地域内で共有・循環させるリジェネラティブなコミュニティの構築を提案する。

さらに本提案は、平時の地域活性化だけでなく災害時の防災機能も担う。日本は世界有数の災害多発国であり、特に地球温暖化による猛暑下での災害時には飲料水や冷房電力の確保が喫緊の課題となる。コミュニティ単位で日常的に水や電力を蓄積・共有する仕組みを整備することで、非常時においても地域住民の安心・安全を支えることが可能となる。

本提案が伝統産業の継承と地域エネルギーの蓄積を両立させ、災害時に一人でも多くの命を救うコミュニティ創出の契機となることを期待する。

作品講評

長野県諏訪市を対象に、味噌文化の再興と住民交流の活性化を目指し、未利用エネルギーや再生可能エネルギーを活用しつつ、エネルギーを地域内で共有・循環させるリジェネラティブなコミュニティの提案である。本提案は、平時の地域活性化だけでなく災害時の防災機能も担っている。温泉施設や味噌工場などがコラボレーションして地域を盛り上げていくとても上手くまとまった内容である。

優秀賞
循環する都市の呼吸
~人工光合成による発電型建築設備の提案~

応募者(敬称略)

氏名 所属 学部・学科
夏目優樹 愛知工業大学 工学部 電気学科 電気工学専攻
村尾空

作品に込めた思い

近年、地球温暖化の進行に伴い、都市部におけるCO₂排出の削減と再生可能エネルギーの活用がますます求められています。とくに日本の大都市では,電力消費の多い高層ビル群が集中し、その多くが化石燃料に依存したエネルギーで稼働している現状があります。

本提案では、都市に建つ高層ビルの外装に人工光合成装置を組み込み、ビル自体を「CO₂を吸収し資源化する環境装置」へと転換することを目指しました。

ビル表面という都市空間の膨大なポテンシャルを活かすことで、エネルギーの自給とCO₂削減の両立が可能になります。仮に太陽エネルギーの変換効率30%を達成できれば,大規模ビル1 棟で年間数千トン規模のCO₂を資源として回収でき、都市のカーボンニュートラル化に大きく貢献できると考えています。

私たちは,建物を「エネルギーを消費するだけの箱」ではなく、「地球環境を守るための能動的な装置」へと進化させる未来を描いています。

本提案を通じて、都市そのものが地球環境を再生する担い手となる新しい未来の可能性を提示したいと考えました。

作品講評

都市に建つ高層ビルの外装に人工光合成装置を組み込み,ビル自体を 「CO2を吸収し資源化する環境装置」へと転換することを目指した提案である。着眼点が良く、独自性がありストーリーもまとまっている。エネルギー利用のみではなく、さらに環境を再生するという側面も提案できると作品への思いに繋がると思われる。

佳作
海のゴミから始まるクリーンな循環

応募者(敬称略)

氏名 所属 学部・学科
中野雄一郎 愛知工業大学 工学部 電気学科 電気工学専攻
久田朝陽
平山達也

作品に込めた思い

海洋ごみは年々増加し、海洋生態系や人間生活に深刻な影響を与えています。私たちは「ごみを削減しながら資源化できないか」という視点から、海洋建築という新しい構造を考えました。

これは海上に設置され、漂流するごみを回収し資源へ変換する機能を備えた建築物です。回収したプラスチックや有機物は熱分解をしてエネルギーへ転換され、その電力を建築物の運営や周囲の活動に活用します。また発電の過程で生じる二酸化炭素の排出を抑えるなど環境への負荷を最小限にしています。

エネルギーの活用としてサンゴ礁の育成を促進させ、海の生態系の再生も促します。私たちは海洋建築を通して「ごみを減らす」「資源を生み出す」「環境を守る」という役割を果たせると考えています。

一つ一つの海洋建築が海を守り、ごみをエネルギーへ変えていく。こうした取り組みが積み重なることで、持続可能な社会へと近づいていくと信じています。

作品講評

海上に設置され、漂流するごみを回収し資源へ変換する機能を備えた海洋建築の提案である。回収したプラスチックや有機物を海洋建築に設置された風力や太陽光発電電力を利用して熱分解しエネルギーへ転換、そのエネルギーはサンゴ礁の育成にも活用してCO2の吸収も行う。独創性もあるが、エネルギーの流れ、またエネルギーシステムの詳細についてのさらなる説明があればと思われる。

佳作
浮かぶ水草が結ぶ循環の環

応募者(敬称略)

氏名 所属 学部・学科
藤田拓海 愛知工業大学 工学部 建築学科
長谷川晃雅
鈴木歩果

作品に込めた思い

近年、地球環境を取り巻く社会問題として、エネルギー問題が挙げられます。我が国では火力発電を主としており、CO₂を排出する発電方法であるため、化石資源への依存率が高いです。そのような現状の中、我が国を含め世界全体で再生可能エネルギーの普及を進める動きが高まっています。

そこで私たちはホテイアオイという植物に着目しました。ホテイアオイは繁殖力が高く、資源として安定した供給を得られます。これを中心に、エネルギーと資源が循環するシステムを考えました。ホテイアオイをバイオガス発電に活用することで、CO₂を排出せずに都市へと電力を供給することができます。また、水質浄化作用による畜産排水の処理や、コンポスト化による農地への肥料利用にも役立てられます。これにより都市と産業をつなぐ持続可能な未来を実現することが可能だと考えています。

この作品を通して環境問題をより身近に感じ、一人ひとりが意識を高めることで、より良い未来になることを願います。

作品講評

繁殖力の高いホテイアオイのバイオガス発電への活用、水質浄化作用による畜産排水の処理、コンポスト化による農地への肥料利用により、都市と産業をつなぐ持続可能な未来を実現することを目指した提案である。繁殖力の高さゆえに環境問題ともなりうるホテイアオイをうまく活用した提案であるが、今後はさらに定量的な検討がされることを期待する。

佳作
エネルギー自給型農業拠点
~農業発のエネルギーが、地域の未来を照らす~

応募者(敬称略)

氏名 所属 学部・学科
木下雅斗 愛知工業大学 工学部 電気学科 電子情報工学専攻
日比野遥香 工学部 電気学科 電気工学専攻
永谷将汰

作品に込めた思い

地球温暖化の進行により、気候変動が農業に深刻な影響を及ぼす中、農林水産分野における温室効果ガス排出量の約3割が燃料の燃焼によるものであるという現状は、持続可能な農業の実現に向けた大きな課題である。

そこで、晴天時は太陽光発電、雨天時にはレインパネル、昼夜問わず稼働する温度差発電、そして風や振動を活用した振動発電、これら4つの技術を組み合わせることで、天候に左右されない持続可能な電力供給を提案する。

従来のエネルギーを「消費する農業」から「生み出す農業」へと転換し、環境負荷を抑えながら農業を起点としたエネルギー循環を地域全体に広げることで、新たな地域活性化の可能性を育む。持続可能な社会の拠点として、未来の農業の新たなスタンダードとなることを目指した。本提案を通じて、農業と自然エネルギーの融合が地域の未来を照らす光となり、脱炭素社会への一歩を踏み出すきっかけとなることを切に願っている。

作品講評

ビニールハウスに晴天時は太陽光発電、雨天時には雨滴がパネルに触れることで生じる静電気を利用するレインパネルとして発電するパネル、用水路と温室内の温度による発電、ハウスの側面フレームに設置した振動発電によって運用できる自立型ハウスの提案である。発電量だけでなく消費量も含め年間の収支をもとに、短中長期の蓄エネルギーを含めたエネルギーシステムを検討されているとよい。

佳作
都市の排水を資源に変える「下水冷却型データ
センター × 植物園Data-Botanicaloop」の提案

応募者(敬称略)

氏名 所属 学部・学科
一ノ瀬龍星 静岡⽂化芸術⼤学 ⽂化政策学部 芸術⽂化学科

作品に込めた思い

データセンターは都市を⽀える基盤でありながら、その⽔と熱は⻑く「⾒えないまま」消費・廃棄されてきました。こうしたことを背景に、近年ではデーターセンター建設への反対運動も⾼まってきています。そこで私はその問題を解決する⽅法として、下⽔の再⽣⽔で装置を冷やし、そこで⽣じる熱を温室で受け⽌め、さらに⾮常時には発電で最⼩限の暮らしを⽀えることを提案しました。

この提案の⽬的は⼆つあります。第⼀に、資源のロスを減らし、都市の「みず・でんき・くうき」をつなぎ直すことと、その循環を市⺠の体験として可視化し、技術が社会の安⼼と学びにつながることを⽰すことです。

データセンターを“迷惑施設”でも“ブラックボックス”でもなく、⽇常に溶け込む公共的な装置へと更新すること。無駄を価値に、負荷を恵みに変える─⼩さな⼀歩ですが、その当たり前をここから始めたい。これが本作品に込めた思いです。

作品講評

データセンターでの内部発熱を下水の再生水で処理し、排熱を温室の加熱に活用する「Data-Botanica loop」の提案である。大量の電力を消費するデータセンターと慢性的な電力不足という深刻な課題に着目した提案である。一方で既存技術プラスアルファの提案による独創性、コスト、要素技術の規模感などの提示があればさらに良い提案になったと思われる。

佳作
循環
~バイオエネルギーがつなぐ島の未来~

応募者(敬称略)

氏名 所属 学部・学科
山田希乃風 中部大学 工学部 建築学科
渡邊成
竹澤侑希
種本勇飛

作品に込めた思い

私たちは「循環~バイオエネルギーが繋ぐ島の未来~」をコンセプトに、日間賀島の電力を島内でまかなう仕組みを提案します。限られた資源の中で自給自足する持続可能な暮らしは、CO₂削減やSDGsにもつながると考えました。

特に7項目「エネルギーをみんなに。そしてクリーンに」と13項目「気候変動に具体的な対策を」に注目しています。提案する技術は主に4つで、①シアノバクテリアによる水素燃料電池、②植物を使ったボタニカルライト、③ワカメから作るバイオオイル、④廃棄物を再利用した建築材料です。特にボタニカルライトは街灯の年間消費電力をすべて補うことが可能です。

これらを活用することで、本土からの送電に頼らず、環境に優しく暮らしやすい島の未来が実現できると考えます。

作品講評

面積0.77km2、人口1,666人、世帯数596の島の自給自足の生活を目指した提案である。具体的には島の電力を①シアノバクテリア水素燃料電池、②ボタニカルライト、③ワカメから作るバイオオイル、④廃棄物などによって賄おうというものである。面白い提案であるが、電力消費の量やパターンをもとに4つの発電方法の組み合わせについて説明があれば、さらに良かったと考えられる。

奨励賞
地下鉄の潜在資源で都市の生命維持基盤を創造

応募者(敬称略)

氏名 所属 学部・学科
石榑陽太 岐阜工業高等専門学校 建築学科

作品に込めた思い

地下鉄は大都市特有の交通手段として進化し、より多くの人を効率的に運ぶことを目的としてきた。しかし、近年の異常気象や環境問題に適応していくには、都市が1つの生命体として機能することが必要である。そのため、本提案では地下鉄を都市の生命維持基盤として再創造する。

舞台となる名古屋市営地下鉄は、建物の根のようにして地下に張り巡らされており、地下鉄が持つ様々な潜在資源と合わせて活用することで能動的なプラットフォームとなる。具体的には、みず・くうき・でんきの各装置を地下鉄の駅やトンネル、駅施設周辺に設置する。これにより、エネルギーのクローズドループや有効活用が可能になり、地下鉄網全体で地球温暖化やヒートアイランド現象の緩和に貢献し、適応していく。

個々の建物に対して設備の新しい形を提案するものではなく、都市全体に広がる地下鉄を生命維持基盤として再創造する大掛かりな提案である。これは建築設備の役割を再定義するものであり、本提案が都市が抱える環境問題解決の端緒になることを願っている。

作品講評

都市の生命維持基盤として、地下鉄が持つ様々な潜在資源を有機的に活用できるように再構築することを提案したものである。具体的には、地中熱、電車の回生電力、トンネル内風圧による発電、トンネル内湧水などを利用するものである。例えば駅周辺地域のエネルギーを対象とするのであれば、駅を中心とした地域エネルギーシステムの説明があるとさらに良い提案となると思われる。