コンペティション概要

2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すSDGs(Sustainable Development Goals)を題材に、どの目標を取り入れた建築設備を構築していくのかを構想してもらいたい。環境問題や感染症対策の課題などを抱えた地球上の誰一人取り残さないシステムのアイデアをお待ちしております。

このコンペでは縁の下の力持ちであるエンジニアリングの進化を大胆に予測し、今後の持続可能な社会に貢献する建築設備の未来像を創造してください。対象は建築だけでなく、コミュニティーや地域のインフラストラクチャも含めて考えてよいものとします。なお、エンジニアリングは広く捉えていただいて構いません。

審査員(敬称略)

審査委員長
奥宮正哉〈名古屋大学 名誉教授〉
審査員
村上正継〈建築設備技術者協会 中部支部 支部長〉
閑林憲之〈建築設備技術者協会 中部支部 副支部長〉
黒田慎二〈建築設備技術者協会 中部支部 副支部長〉
伊藤嘉文〈建築設備技術者協会 中部支部 理事〉
八木一夫〈建築設備技術者協会 中部支部 理事〉
服部 敦〈建築設備技術者協会 中部支部 理事〉

総評

この度は、一般社団法人建築設備技術者協会中部支部2021年建築設備士の日記念学生コンペ「SDGsへ建築設備の未来像 ~2030年のゴールに向けて 建築設備の未来へのイノベーション~」に多数応募いただき、心から感謝申し上げます。コロナ禍の第5波の状況の中で、コンペ応募作品を仕上げていくことはとても大変であったと推察しますが、それにも関わらず大変レベルの高い作品を応募してくださった学生の皆さんの努力に敬意を表します。また、多くの応募作品が集まる後押しをしてくださった先生方に感謝を申し上げます。

応募作品については、7名の審査員によって1次審査と2次審査の2段階で厳正に行いました。まず1次審査では書類審査を行い、提出された作品を各審査員が個々に審査し採点をしました。そして、その集計結果をもとに2次審査では3密回避を徹底しながら全員が集まり議論を行いました。上述のように各作品のレベルは高く評価は拮抗しており議論は伯仲しましたが、最終的に最優秀賞1点、優秀賞2点、佳作5点を選定するに至りました。

大変多くの応募作品をいただいたにもかかわらず、それぞれの作品の提案は多様であり、SDGsの特定のまたは複数のゴールに焦点を当てたもの、SDGsそのものの認識を深めていくことを目指したもの、また2030年をある程度意識して実現性に重点を置いたもの、その先も視野に入れてかなり先進的な技術に挑戦することをめざしたものなどがありました。まさにSDGsが誰も取り残さない、そして多くの分野にわたっての持続可能な開発を目指していることの表れであり、学生の皆さんがSDGsを良く理解した上で応募してくださったことが良く分かり、主催者としてはとてもうれしい気持ちでいっぱいです。

昨年の10月の菅総理の所信演説以来、日本は大きく脱炭素、カーボンニュートラルに舵を切り、やっと世界の潮流に寄り添う意識が芽生えた状況です。カーボンニュートラルを標題に色々な技術開発、制度改革が急激に進んでいくことが予想されますが、一方でまだまだ需要サイドの中で多くのエネルギー消費量、CO2排出量の比率を占めるようになった建築分野での省エネルギーに向けての議論は十分であるとは言えないと思います。

今回のコンペへの応募をきっかけにSDGsの精神と17のゴールを意識しつつ、ハードとソフトの両面からの計画などを常に意識しながら、カーボンニュートラルの実現にも貢献できる人材として成長されることを祈念して、建築設備技術者協会中部支部2021年建築設備士の日記念学生コンペの総評の結びとさせていただきます。

2021年11月10日
一般社団法人建築設備技術者協会
中部支部2021年建築設備士の日記念学生コンペ・審査員一同

審査結果

最優秀賞
Life of Aquatic circulation
アクアポニックスを用いた利水型地域産業の未来構想

応募者(敬称略)

氏名 所属 学部・学科
横田 勇樹 名古屋大学大学院 環境学研究科 都市環境学専攻
森永 裕生
勝 満智子

作品に込めた思い

安全な水があたりまえに確保できる日本は世界各地で水問題が危険視される現代においても、「水利用の改善」による貢献を忘れてはいけない。そこで私たちは、日本の水使用量の大きな割合を占める農業用水の削減に焦点を当てる。

本提案では農業が盛んである愛知県田原市を対象にSDGsを見据えた、水問題への貢献と地域産業の特性を活かした街づくりを目指す。そのために、利水循環型システムである「アクアポニックス」を導入した地域産業発展施設を提案する。

この提案によって既存の農作業の簡易化を促進し、誰でも取り組めることが担い手不足の解消にも寄与する。更に、田原市の特徴である地下水資源のカスケード利用や農業廃棄物による小型バイオマス発電を導入することで省エネ化を行う。

将来的に街全体へとアクアポニックスを普及させることで、人々の水問題への意識強化や、新たな産業システムの次世代への継承、さらには南海トラフを見据えた防災拠点として機能することが可能な「街の核」となる未来の姿を期待し、計画した。

作品講評

水問題への貢献と地域産業の特性を活かした街づくりを目指す。そのために、利水循環型システムである「アクアポニックス」を導入した地域産業発展施設を中心に、農業用水の削減、再生可能エネルギーの活用によりSDGsに貢献しようとする優れた提案である。また、これを田原市の地域性を十分に把握した上で今回の大きなテーマである「水利用の改善」をめざした構想としており、先進的な提案でありながら実現性の高いものとして高く評価された。

優秀賞
学びから生まれる持続性
小さな場所から広がり大きく育つSDGs

応募者(敬称略)

氏名 所属 学部・学科
岡田 大輝 愛知工業大学 工学部 建築学科 建築専攻
石井 佑樹

作品に込めた思い

SDGsとは何かを一から考え、街からどのようにアプローチすれば周りに広げていけるのかを考えました。

近年、SDGsを目標に活動をする企業を目にします。しかし、普段暮らしている私たちは「SDGs」という言葉のみ浸透しており、具体的な活動はあまり理解していないと感じています。

そんな中でこの作品には「小学校を起点としてSDGsを広げる」ことを提案しました。小さい頃からSDGsのある生活を過ごすことにより、SDGsが当たり前になっていくと考えています。

その当たり前を成長した後、あらゆる地域に自然と伝わっていくのではと思いこのような提案をさせていただきました。敷地として設定した地域では、稲刈り体験や地域の人を校内へ招き入れものづくり体験をしています。この活動をさらに発展さていくために小学校を地域へと開き、周りとつながりを持たせ交流を生みます。

それに加え、遮熱シートの活用や太陽光発電による省エネなどを取り入れます。

様々なSDGsの目標を取り入れ、スタートは小さな範囲ですが、波紋のように世界中へと広がっていくことに期待しています。

作品講評

小学生のころからSDGsの概念を理解してもらい、その成長とともに持続的に次世代に繋がっていくという発想、またそのために小学校にまずは10年後の2030年までの10年間に実現可能な色々な仕掛けをして地域も巻き込んで活動を進めていくという優れた提案である。一方で未来に向けた新しい技術的なアイデアがもう少し含まれているとなお一層の持続性が期待できるのではないかと思われる。

優秀賞
Sustainable DC Grid City(SDG-City)
持続可能な直流の街 途上国への普及も見据えて

応募者(敬称略)

氏名 所属 学部・学科
倉橋  潤 愛知工業大学大学院 工学研究科 博士前期課程 電気電子工学専攻
津坂 亮博 工学研究科 博士後期課程 電気・材料工学専攻

作品に込めた思い

持続可能な社会を実現するため、近年、再生可能エネルギーに注目が集まっており、その中でも特に太陽光による発電は広く普及している。しかしながら、その利用が拡大していく中で、天候により発電量が左右される不安定な再生可能エネルギーを利用することの難しさ、電気を発電してから消費するまでの変換ロス(直流(発電)→交流(送電)→直流(家電製品))の存在など、様々な問題点が明らかとなってきた。

私たちはこれら問題点を解決するため、持続可能な直流の街 Sustainable DC Grid City(SDG-City)を提案する。これにより、家電製品と再生可能エネルギー・蓄電池との間の壁を取り去り、レドックスフロー電池と組み合わせることで、不安定であるという再生可能エネルギーの欠点を補うことが可能となる。さらに、家の建築には3Dプリンターを用いることで、建築に要する労力の低減を行い、材料として現地の土や藁を用いることで、持続可能な建築方法としている。

今回の提案では、先進国はもちろんのこと、特に開発途上国への普及を視野に入れており、地球上の誰一人も取り残すことなく、多くの人々の生活の質が向上することを願っている。

作品講評

再生可能エネルギーのさらなる有効かつ安定活用を目指し、電気変換ロスの少ない直流給電の街 Sustainable DC Grid City と、発展途上国への展開も視野に入れて3Dプリンターによる家の建築も提案したとても実現可能性の高い優れた提案である。一方で3Dプリンターによる家の建築は唐突な感も否めず、全体ストーリーの工夫、途上国での直流の街のイメージの表現に工夫が望まれる。

佳作
海洋エネルギー循環型スマートアイランド

応募者(敬称略)

氏名 所属 学部・学科
盛田 紗那 名城大学 理工学部 建築学科
金子 知可 理工学部 建築学科 修士
林  志穂 理工学部 建築学科
藤岡 優希
林  和哉

作品に込めた思い

SDGs17の目標のうち、「7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「14.海の豊かさを守ろう」の二つに主に着目し、海洋ゴミからの発電システム、及びそれを利用したスマートアイランドを提案します。

海洋ゴミを回収し、活用することによる海洋汚染の防止。島全体のエネルギーをICTで管理することによる、エネルギー効率の改善。離島において持続可能なエネルギーの確保は、生活、生産を支える重要な一端を担うと考えます。

島の地形、気候、そして周りを囲む海の状態から、より効率的なエネルギー源を組み合わせ供給するこのシステムを、あらゆる島に広く普及させることでSDG sの目標の達成を目指しています。

作品講評

海中スクリーンを使用して収集した海洋ゴミからの発電システム、また島の地形も生かした再生可能エネルギー利用を中心としたスマートアイランドを提案し、また海洋ゴミからの発電量については具体的な根拠をもとにその効果を推定した優れた提案である。一方で、需要と供給が一体となったダイナミックなシステム制御についての説明が求められ、海洋ゴミ発電とスマートアイランドの関連が明確になることが望まれる。

佳作
台風発電の一歩先へ

応募者(敬称略)

氏名 所属 学部・学科
浅井 唯那 名城大学 理工学部 建築学科
榊原 匡泰
山岡 莉子

作品に込めた思い

私達は、⽇本列島に接近した台風をドローンが追いかけ、発電できるシステムを考えました。

台風は毎年数回に渡って⽇本列島を襲い、甚⼤な被害をもたらします。そんな膨⼤なエネルギーを持つ台風に屈することなく利用したいという思いから発案しました。

近年開発が進み、現実的になっているマグナス風⾞をドローンの上に取り付け、ドローンから受電ユニットへマイクロ波ビームを飛ばし、電気に変換します。

このシステムにより、近年は気候変動の影響で⼤型化する傾向にある台風が有する巨⼤なエネルギーの⼀部を、発電に役⽴てることが可能になります。台風による停電時にも蓄電した電気を利用することができ、気候に関する災害や⾃然災害が起きたときに、対応できる⼒を備えることが可能になります。

また、風⼒発電の増加により、エネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を拡⼤させることができます。

作品講評

マグナス風車をドローンの上に取り付け、日本列島に接近した台風をドローンが追いかけ、発電し、受電ユニットへマイクロ波ビームを飛ばし、電気に変換するという提案であり、かなり革新的な優れた提案である。一方で、ドローンに風車を取り付けて台風の中で発電する場合の構造的な問題、また台風よりもむしろ低気圧程度の風を追っかけてたくさん飛ばした方が良いのではないかといった点についてのさらなる検討を要すると考えられる。

佳作
バイオマスを運ぶ未来へのレール

応募者(敬称略)

氏名 所属 学部・学科
谷  哉汰 名城大学大学院 理工学研究科 建築学専攻
吉田 吏玖 名城大学 理工学部 建築学科
吉田 有輝
坂井 健太
木村 嘉人

作品に込めた思い

SDGsという多大な目標の中で、特に地球温暖化などの環境問題について掲げました。2030年とそう遠くない未来に大きな変革をもたらすために、近年注目度が高まっているバイオマス事業をさらに活性化させる手はないかと考え、それを作品の形にしました。

この作品には、新たな未来の建築設備の手助けになること、SDGsという人類の大きな目標への手助けになること、そして私たちの故郷である地球を守るための未来へのレールになれば、との思いを込めました。

作品講評

バイオマス事業をさらに活性化させるため、森林間伐材の活用を中心としたシステムを提案し、またその多くの波及効果を視野に入れた優れた提案であり、名古屋駅にバイオマスプラントを設置するという象徴的なものである。一方で、提案されたプラント立地は現実的であるのか、間伐材の存在する場所の近くで実施した場合との種々の観点での比較、また効果試算の根拠の妥当性などの説明が望まれる。

佳作
AI・IT と働く時代へ

応募者(敬称略)

氏名 所属 学部・学科
野中  晃 中部大学 工学部 建築学科
田中 愛美
多賀 友哉
細野  楓

作品に込めた思い

建設業界は、⻑時間労働、作業員の⾼齢化と若手就労者の減少、安全第一による現場での非効率化、デジタル化の遅れ、など多くの課題を抱えている。 一方、今後の需要は右肩上がりの傾向にあり、課題の解決が急激に必要となる。

私たちは課題解決に、作業の生産性向上だけでなく、ディーセント・ワークも意識した取り組みが必要であると考えている。

現在、「i-Construction」が多くの現場で導入され上記の課題解決に拍車がかかっている。だが、今の技術ではすべての作業を IT 化することは困難である。

そこで、2030 年のゴールに向けた今回のコンペでは、それまでには確立できていると期待する AI や IT といった先端技術に注目し、現場と室内の2つの観点から生産性向上の提案を行うものである。

作品講評

建設業界における、⻑時間労働、作業員の高齢化と若手就労者の減少、安全第一による現場での非効率化、デジタル化の遅れ、など多くの課題をとらえ、これをAI・ITを使った「現場での働き方」の効率化、執務環境の快適さについて提案し、また建設現場の実態を良く把握した優れた提案である。一方で、快適さに対してさらに新規性のある提案が望まれ、本提案は「現場での働き方」に的を絞りさらに充実させても良かったのではないかと感じられる。

佳作
未来の北千種キャンパス

応募者(敬称略)

氏名 所属 学部・学科
鈴木 笙悟 名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科 博士前期課程1年
吉野 遥樹 名古屋市立大学 芸術工学部 建築都市デザイン学科
野々村佳奈
吉岡 沙野 名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科 博士後期課程2年
Yuniar Afifa nur 芸術工学研究科 博士前期課程1年

作品に込めた思い

将来の持続可能な社会の実現のため、建築にはSDGsやCO2削減といった取り組みが求められている。そこで、名古屋市⽴⼤学の北千種キャンパスを題材として、⽬標実現のための技術を取り⼊れた⼤学施設を構想した。

取り⼊れた要素について、太陽光パネルや⽔素ステーションなどの省エネ技術はもちろんのこと、それに加えて「誰⼀⼈取り残さない」というSDGsの⽬標に向け、個⼈個⼈の違いに着⽬した建築設備が必要であると考えた。具体的には、⼤学施設という多種多様な⼈間が利⽤する施設であることから、どんな⼈でも利⽤しやすいオールジェンダートイレの導⼊、IoT を活⽤した下宿中の学⽣の健康補助の提案を取り⼊れた。

また、南海トラフ等の災害時に利⽤する避難所としての役割にも着⽬し、緊急時の⽣活雑⽔確保のための貯⽔槽や、太陽光パネルで発電した余剰電⼒を⽔素分解して緊急時に利⽤する仕組みを取り⼊れた。

最後に、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを、⼤学という地域に促した研究施設が率先して取り組むことは、地域全体の意識の向上につながると考える。

作品講評

SDGsやCO2削減といった目標実現のための技術を取り入れた大学施設を構想し、特に多種多様な人間が利用する施設であることから包摂性に着目している。さらに、地域の避難所としての役割もシームレスに担うことを目標とした優れた提案である。一方で、豊富なメニューを全体としてさらにストーリー性のある提案にレベルアップし、同時に焦点をはっきりとさせる工夫が望まれる。

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