コンペティション概要
わたしたちの生活に欠かせない快適な環境を作る重要なアイテムである「でんき・みず・くうき」を有効に活用して建築設備の未来を創造しましょう。
そして建築設備が地球環境にやさしく、人々に幸せを与える未来のイノベーションを提案してください。
審査員(敬称略)
- 審査委員長
- 奥宮 正哉〈名古屋大学 名誉教授〉
- 審査員
- 黒田 慎二〈建築設備技術者協会 中部支部 支部長〉
河村 英之〈建築設備技術者協会 中部支部 副支部長〉
増田 素之〈建築設備技術者協会 中部支部 理事〉
村上 正継〈建築設備技術者協会 中部支部 理事〉
伊藤 嘉文〈建築設備技術者協会 中部支部 理事〉
水野 孝政〈建築設備技術者協会 中部支部 理事〉
後援
(公社)空気調和・衛生工学会中部支部
(一社)電気設備学会中部支部
(一社)愛知県空調衛生工事業協会
(一社)愛知電業協会
(一社)静岡県設備設計協会
(一社)岐阜県設備設計事務所協会
(一社)三重県設備設計事務所協会
(一社)愛知県設備設計監理協会
※順不同
総評
この度は、一般社団法人建築設備技術者協会中部支部2024年建築設備士の日記念学生コンペ「建築設備の未来へのイノベーション~未来の環境を創造する「でんき・みず・くうき」の活用~」に多数応募いただき、心から感謝申し上げます。レベルの高い作品を応募してくださった学生の皆さんの努力に敬意を表します。また、多くの応募作品が集まる後押しをしてくださった先生方に感謝を申し上げます。
応募作品については、7名の審査員によって1次審査と2次審査の2段階で厳正に行いました。まず1次審査では書類審査を行い、提出された作品を各審査員が個々に審査し採点をしました。そして、その集計結果をもとに2次審査では全員が集まり議論を行いました。
今回の応募作品を概観しますと、課題において「でんき・みず・くうき」を最初にしたことが影響したのかもしれませんが、電気に関する提案を多くいただきました。また水利用に関してもご提案がありました。規模としては建物・施設単体から地域まで色々なご提案があり、BCPを視点に入れたものもありました。さらに、今回はこれまでになかったユニークな対象を設定したご提案もあり、学生の皆さんが本コンペのテーマを良く理解した上で応募してくださったことが分かり、主催者としてはとてもうれしい気持ちでいっぱいです。
応募作品はどれも力作でしたが、一方で全ての作品においてもう少し独自性・創造性があり、定性的・定量的な検討が加えられていれば、さらにレベルの高い提案になったのではないかという評価がされました。
そして昨今はネットなどで各種の技術などに関する情報が多く得られる時代であり、その中で将来に向けての提案に独自性を持たせることの難しさなども含めて議論した上で、最優秀賞1点、優秀賞1点、佳作4点を選定いたしました。また今回も奨励賞を1点選定いたしました。
今回のコンペをきっかけに建築、都市そして設備が地球環境にやさしく、人々に幸せを与える未来をさらに意識していただき、自由な発想を持って豊かな世の中の実現に貢献できる人材として成長されることを祈念して、建築設備技術者協会中部支部2024年建築設備士の日記念学生コンペの総評の結びとさせていただきます。
どうもありがとうございました。
2024年11月27日
一般社団法人建築設備技術者協会 中部支部
2024年建築設備士の日記念学生コンペ・審査員一同
審査結果
〜合成燃料を使った脱炭素港〜
応募者(敬称略)
氏名 | 所属 | 学部・学科 |
山田 響生 | 愛知工業大学 | 工学部 電気学科 |
---|---|---|
山田 尚幸 |
作品に込めた思い
大気中のCO₂濃度上昇による地球温暖化に歯止めをかけるため、近年、世界的に脱炭素化への取り組みが行われている。一方、現在の日本において港湾での大型船の離着岸は小型船であるタグボートにより行われており、その動力源は軽油が主流である。
また、全国の港湾において労働者の不足、高齢化が深刻な課題となっている。
そこで本提案では、タグボートを電動化し、海中無線給電により自動運用をし、電源元には燃料にCO₂を回収して生成される合成燃料による発電と港湾周辺のメガソーラーを用いている。
これにより港湾運用のカーボンニュートラル化、人手不足対策が期待できる。
また、合成燃料による発電は現行の火力発電設備を転用できるため、発電手法の経済的な転換が可能となる。発電時に生じる温排水は魚等の養殖に用いることで、養殖業の活性化も期待できる。
本提案の実現により、CO₂排出量が低下し将来の地球環境がより良いものとなること、全国の港湾の活性化が叶えられることを願う。
作品講評
港におけるタグボートの電動化と無線給電、自動運転、そして電源としては合成燃料による発電、太陽光発電を利用することにより、港湾運用のカーボンニュートラル化と人手不足解消を提案したものである。ユニークな視点であり高い評価を受けた。今後エネルギー循環の考え方、工業排水の環境影響その他をさらに精査していくことが期待される。
ーコンパクトシティにおけるエネルギーの自給自足を目指してー
応募者(敬称略)
氏名 | 所属 | 学部・学科 |
岩田 光輝 | 名古屋大学大学院 | 環境学研究科 都市環境学専攻 |
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黒部 圭祐 | ||
安田 愛美 | ||
山本 哲士 | ||
服部 令汰 |
作品に込めた思い
現状、日本の地方都市では大都市への移住や少子高齢化による過疎化や公共交通機関の衰退などの課題がある。
そこで、都市一極集中の緩和・カーボンニュートラル実現に向けた運輸部門でのCO₂排出の削減・人口減少を考慮し、コンパクトシティを推進していく必要がある。
コンパクトシティ化の主目的は、公共交通機関を中心とした都市を形成し、都市機能の近接により移動効率を向上させることである。一方で、建築設備の観点から見ると、コンパクトシティ化による都市機能の近接は、空調負荷の集約・平準化に寄与するため地域冷暖房(DHC)の導入効果が期待できる。
また、DHCの導入は未利用エネルギー活用・負荷の平準化・機器の高効率化といった利点があり、将来の都市エネルギー消費の削減に必要不可欠である。
そこで、本作品では中核市における都市全体のエネルギーの自給自足を目指し、中心部だけでなく都市全体での熱供給システムを提案する。
この提案がカーボンニュートラルの実現と日本の都市が抱える諸問題解決の足掛かりとなることを切に願う。
作品講評
コンパクトシティーによって交通エネルギー、空調エネルギーなどを適正化しエネルギー自給自足を目指そうという提案である。30万人都市を想定し商業地区と住宅地区でのDHCと両者での排熱融通などを含むシステムの性能検証まで行っている点は評価できる。一方で、「でんき、みず、くうき」をさらに意識し、未来へのイノベーションの提案がされていれば評価はさらに高くなったと考えられる。
~次世代エネルギー技術の建築への適用~
応募者(敬称略)
氏名 | 所属 | 学部・学科 |
奥田 至音 | 愛知工業大学 | 工学部 建築学科 河路研究室 |
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石森 義人 | ||
浜田 駿一 | ||
井上 綾乃 | ||
鷲尾 京祐 | ||
近藤 佑星 |
作品に込めた思い
私たちが目指したのは、持続可能な未来を実現するための新しい手段です。
現在、地球温暖化やエネルギー資源の枯渇といった深刻な環境問題に直面していますが、これらの問題に対して、既存の技術だけでは不十分です。そこで、私たちは新しい発電・蓄電技術の建築への適用を提案します。
湿度変動電池、蓄電コンクリート、発電ガラスの三つの先進技術を適用した建築物を提案します。湿度変動電池は湿度の変化をエネルギーに変える技術で、様々な環境でのエネルギー供給をします。蓄電コンクリートはエネルギーの蓄積と供給を可能にし、発電ガラスは建物のデザインを損なうことなくエネルギーを生成し、省エネルギー性能を高めます。
これらの技術を融合させることで、建築分野における再生可能エネルギーの利用量を増大させることができ、カーボンニュートラルの実現に向けて貢献できるものと考えています。
作品講評
湿度変動電池、蓄電コンクリート、発電ガラスの三つの先進技術を適用した建築物を提案したものである。「くうきとみず」から電気、「ひかり」から電気を創り、それを蓄電コンクリートにためる建物である。身近な建物を題材に提案するという着眼点は評価できる。一方で、エネルギーバランスなどについての検討があればさらに良い提案になったと考えられる。
~未来に残る街づくり~
応募者(敬称略)
氏名 | 所属 | 学部・学科 |
服部 広歩 | 愛知工業大学 | 工学部 電気学科 電気工学専攻 |
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石川 結士 | ||
神谷 颯人 | ||
笠井 瑠斗 | ||
苅谷 洋紀 |
作品に込めた思い
本提案では,「くうき・みず・でんき」を有効活用し,持続可能な生活を実現するための集合スマートハウスの紹介について考案しました。光に反応して空気清浄機の役割をする多機能太陽光発電技術と,全固体電池を用いた大容量の蓄電池を導入し,AI 制御による自律的な電力管理のもと,各機器へワイヤレスで電力を送電するこのシステムは,再生可能エネルギー電源を無駄なく,効率よく利用することができると考えています。
地球温暖化の進行を抑制するために温室効果ガスの削減が必要不可欠な現代において、建築設備にも環境にやさしい技術を利用することが重要視されています。このような状況においても,家電や家具の配置等の生活の快適性やデザイン性を損なうこと無く,住む人の好みに合わせて自由にインテリアを設計することができる住宅をコンセプトにして考えました。これからの未来では,環境に配慮しながらも,より快適で,設計自由度の高い住宅となっていくべきであると考えています。
今後,持続可能な社会の実現に向けて歩んでいく必要があるなかで本提案は,人々の暮らしの質を下げることなく,環境と調和した住宅が増えて欲しいという願いを込めました。
作品講評
空気清浄機能を持つ光触媒を利用した太陽光パネル、安全かつエネルギー貯蔵密度の高い全固体電池を用い、AI制御による自律的な電力管理のもと,室内レイアウトの自由度を向上させるワイヤレス送電を行う集合スマートハウスの提案である。コミュニティーを中心に建築的な視点も持った計画として評価されるが、この視点をもう少し明確にしたプレゼンであればさらに良かったのではないかと思われる。
再生可能エネルギーで生き抜くトレーラーハウス
応募者(敬称略)
氏名 | 所属 | 学部・学科 |
柴田 晃佑 | 愛知工業大学 | 工学部 電気学科 |
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柴田 隼弥 |
作品に込めた思い
日本は地震や台風、大雨、津波など自然災害が頻発する国で、特に東海地方では南海トラフ地震や東海地震のリスクが常に存在しています。さらに世界的にも異常気象が頻発しており、地球温暖化が一因であると世界気象機関が発表しています。
これに対抗するため、私たちが提案するのが「完全自立型トレーラーハウス」です。このトレーラーハウスは、自然災害によるリスクを最小限に抑え、災害時にも安心して生活できる環境を提供します。
このトレーラーハウスは、再生可能エネルギーを利用して電力を供給し、空気から水を抽出する技術により安定した水源を確保します。また、省エネ設計と持続可能な素材を使用し、環境への配慮も抜かりありません。これにより、ライフラインが断絶した場合でも、自立した生活が可能です。
緊急避難時には迅速に移動でき、長期的には自給自足の生活が実現できます。 加えて、これらの技術はトレーラーハウスに限らず、避難所生活においてもライフラインを確保するために応用可能です。このトレーラーハウスは、どんな過酷な状況でも安全で快適な生活をサポートするための革新的なものであり、自然災害に備えた新しい選択肢として提案します。
作品講評
再生可能エネルギー電源、空気から水の抽出、省エネ設計、持続可能な素材の使用などによる自立できるトレーラーハウスの提案である。太陽光発電、植物発電を利用しており、災害時に迅速にエネルギー源が確保できる場所に移動し生き抜くことができる。自給自足のエネルギー、資源のバランス、緊急移動時の経路の安全確保などについても言及があればさらにリアリティーが増したと考えられる。
~都市の建物を利用した力学的蓄電システム~
応募者(敬称略)
氏名 | 所属 | 学部・学科 |
田中 豪二郎 | 中部大学 | 工学部 建築学科 |
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藤松 叶楽 | ||
松岡 輝 |
作品に込めた思い
近年増えつつある太陽光発電で、抑制され、無駄になってしまう電力があること、新しい蓄電システムである重力蓄電に注目し、それらを軸に、都市の背の高い建物を利用してこれからの時代に適合した発電及び作った蓄電のかたちを提案します。
これらはただ単に背の高い建物に発電・蓄電のシステムを加えるだけでなく、建物の壁面(屋上)緑化や、制振装置との組み合わせなど、発電所ではなく都市部の建物でやることの意味を持ちます。
また、この提案では通常切り離して行われる壁面(屋上)緑化と太陽光発電を組み合わせることによって相互に効果を生みます。パネルで影を作り植物を過剰な日光から守り、植物への散水や植物の蒸散でのパネルの冷却によりパネルに熱がこもり発電効率の低下を抑えます。
さらに、発電効率を維持することで、より大きな電力量の貯蓄へ貢献します。
これから増える太陽光発電の増加に対し、抑制量やパネル設置による森林破壊といった太陽光発電の課題を踏まえて、それらに対処できるような物はないかと考え、このような都市での太陽光発電及び蓄電のしくみを考えました。
作品講評
太陽光発電の余剰電力のビルに設置する重力蓄電装置への貯蔵、太陽電池と緑化の組合わせによる緑化保護、太陽光発電効率向上を目指す提案である。「都市部の高層ビルに適用し開発による環境破壊を防ぐ」という発想は同感であるが、エリアでの余剰電力利用のためのネットワーク、太陽電池と壁面緑化の収まり、重力蓄電の設置方法などの説明があると提案がさらに明確になると考えられる。
応募者(敬称略)
氏名 | 所属 | 学部・学科 |
井戸 楓真 | 愛知工業大学 | 工学部 電気学科 電気工学専攻 |
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吉田 悠希 | ||
豊田 昂大 | ||
岡崎 紗季 | ||
河邉 拓磨 |
作品に込めた思い
近年、CO₂排出量の増加に伴う地球温暖化の問題が深刻化しています。特に、化石燃料を使用した発電が大量の温室効果ガスを排出するため、再生可能エネルギーを利用した発電への移行が求められています。
そこで私たちは「太陽光発電」が飛躍的に発展した未来における航空産業について思案しました。
科学技術のさらなる進展により、実現可能な範囲が広がることに期待しながら、「こんな世の中になったらいいな」という子供のような無邪気で自由な発想を大切にして、今回のアイデアである「空中に永遠に飛べる空中都市」を構想しました。この夢のような未来予想からスタートして、どのようにすればより快適な空間を提供できるのかについて、本コンペのテーマである「くうき・みず・でんき」および「建築設備」と結び付けながら考えていきました。
具体的に考えれば考えるほど、様々な技術や設備の課題に直面し、現実的な提案に変更しようと思いましたが、自分たちの未来に希望をもって、より挑戦的で野心的な提案とすることにしました。このような未来がいつか来ることを強く希望しています。
作品講評
太陽光発電が飛躍的に発展し日本の全電力を賄うことが可能になった未来を想定し、「空中を永遠に飛べる都市」を構想したものである。航空業界の未来、都市として飛行する航空機のしくみ、その中での「くうき、みず、でんき」の供給についても考えられている。飛行する航空機が単体、そして複数としてどのように都市を形成するかの検討があればさらに良い提案となったと考えられる。